社内における横領や情報持ち出しなどの不正行為は、ほぼ全ての企業で行われていると言っても過言ではありません。実際に全就業者(全国20~69歳男女)の約13.5%が不正に関与、もしくは見聞きした経験があるという調査結果もあります。今回は、実際に起こった事例と共に、社内不正について詳しく解説していきます。
1. 社内不正とは?社内不正の種類とその事例を紹介
社内不正は、組織内部の者が行う不正行為や違法行為を指し、以下のような種類があります。
金銭の横領
例: 2024年2月、自動車販売会社経理担当の元従業員が82回にわたりインターネットバンキングを用いて、会社が管理する口座から自分名義の口座へとおよそ2億1000万円を振り込み横領した事例。
情報の漏えい
例: 2024年3月、化学メーカーの欧州グループ会社の元従業員が退職直前に同社が保有する個人情報を含む内部情報を不正に持ち出す事例。
業務上の詐欺
例: 2024年8月、リサイクル業者の元会社員が「賄い費」という名目の領収書を、雇用していない人の名義を使う手口で、会社の資金を騙し取った事例。
インサイダー取引
例: 2024年5月、ある飲食チェーン会社の元役員が、新型コロナウイルスによる業績予想の下方修正を公表する前に、およそ5700万円分の株を売却した事例。
2. なぜ社内不正は発生する?不正の原因を解説
社内不正の原因は多岐にわたりますが、主に以下の要因が挙げられます。
個人の不正許容度と組織の不正黙認度
個人の不正許容度が高いと、不正行為を行いやすくなります。また、組織全体で不正を黙認する風潮があると、不正行為が行われたとしても、見過ごされてしまう悪環境ができてしまいます。
組織内のコミュニケーション
ちかくに相談できる同僚や友人が多い場合(社会関係資本が厚い場合)、不正が発生するリスクは低くなり、目撃後の対応率も高まると考えられます。これにより、不正行為が未然に防がれる傾向にあります。
不正発生の動機
社内不正の理由の約6割は故意が認められない「うっかりミス」でした。これを防ぐには管理者によって扱う情報に格付けするなどのルールや規則を明確にし、徹底周知することが対策として有効です。また、故意が認められた社内不正は約4割ほどで、その動機は私的なものが多く、社内のコミュニケーション不足や社内の監視体制の不備、社員のモラルの低下が理由だと考えられます。
出典: 独立行政法人情報処理推進機構(2016)「内部不正による情報セキュリティインシデントの実態調査」3.社内不正を防止するには?その対策について
社内不正への対策
社員の意識・モラルを高め、ルールの周知を行うために定期的な研修を行う企業が多いです。しかし、現状では多くの企業が形式的な不正対策にとどまっており、従業員の43.7%が「不正対策は形式的に行われているだけ」と感じ、34.5%が「担当者が話を聞きに来るが、実際には何も変える気がない」と考えています。特に不正が発生しやすい企業では、この傾向が顕著です。こうした研修などが「こなし」作業になってしまわないように工夫が必要でしょう。
社内不正を防ぐための具体的なステップ
1. 組織の価値観や倫理観を明確にする
組織の価値観や倫理観を明確にし、それを社員全員に共有することで、一貫した行動基準を確立します。社員全員が共通した倫理観を持てば社内不正の発生は自ずと減少するはずです。
2. 定期的な社内教育やトレーニングを実施する
社員の意識・モラルを高めるために、定期的な研修などを実施します。特に、新入社員のオリエンテーションや年次のコンプライアンス研修を重点的に行うことで継続して高い倫理観がキープできるでしょう。
3. AIを活用した不正察知システムを導入する
AI技術を活用した不正察知システムを導入し、リアルタイムでの不正行為の検出を可能にします。これにより、不正行為を早期に発見し、スピーディな対応が可能となります。AIによるパターン認識や異常検知を活用し、隠れているな不正行為を見逃さないようにすることが重要です。
4. 定期的な内部監査を行い、外部からの監査も受け入れる
定期的な内部監査を行い、外部からの監査も受け入れることで、組織内の不正行為やリスクを早期に発見し、対策を講じることができます。内部監査の強化と外部監査の導入により、監査の透明性と客観性を確保することが求められます。
5. 透明性の確保と報告制度の整備
透明性を確保するために、全ての業務や取引について詳細に記録を保管し、定期的に報告する制度を整備します。透明性の高い環境では不正を行う人も行動がしづらくなります。また、不正行為を発見した際の内部告発制度もしっかりと整備し、報告者が不利益を被らないような仕組みを構築することが重要です。現状では相談・通報窓口の認知率は全般に低く、社内で40.3%、社外で26.1%程度にとどまっており、あまり利用されにくい状態となっています。
6. リスク管理の徹底
不正行為について事前にどのように影響が出るのかをしっかりと評価し、そのリスクに対する適切な対策を講じることが必要です。リスクの高い業務や取引については特に厳格な管理が求められます。
7. 倫理的なリーダーシップの育成
組織のリーダーが高いモラルを持ち、従業員に対して一貫したメッセージを送ることが重要です。組織のリーダーには研修や評価制度を導入し、倫理的な行動が行いやすい環境を整えます。
8. 社内文化の改善
社内文化の改善も不正防止に重要となります。オープンなコミュニケーションを奨励し、従業員が意見を述べやすくなれば、不正の発生はもちろん、発覚もしやすくなるでしょう。
社内不正の原因として、組織文化やコミュニケーションの不足がよく挙げられます。特に、組織のトップが明確なメッセージや方針を示さない場合、社員が不正行為を正当化するリスクが高まります。サイバーセキュリティの専門家によると、リーダーシップが弱いと、社員は自分の行動の責任を他者に転嫁しやすくなり、その結果、不正行為が増える傾向があります。
4.Q&Aセクション
社内不正に関するよくある質問とその回答
Q: 社内不正の最も一般的な原因は何ですか?
A: 組織内でのコミュニケーション不足や監視体制の甘さ、そして社員のモラルの低下などが一般的な原因として挙げられます。また、組織のリーダーシップが弱い場合や、経済的に苦しい場合にも、不正に走りやすいです。例えば、生活が厳しい時にボーナスが減ったり、昇進の見込みがなくなったりすると、社員の不満が募り、不正行為に走るきっかけになることがあるでしょう。社員の不満などを解消することも重要でしょう。
Q: AIを活用した不正察知の具体的な方法は?
A: AI技術は、経理データや通信データ(メールなど)をリアルタイムで分析し、不正の兆候やパターンを検出することができます。データアクセスの異常をAIで検出し、情報漏洩のリスクを低減することができます。人間では膨大なデータログのすべてを管理・確認することは困難ですが、AI技術に任せることで正確かつ短時間での成果が見込まれるでしょう。
5.まとめ
社内不正の重要性の再認識
社内不正は、企業のブランドイメージや信頼を大きく失う危険があります。特に、上場企業で、不正が発覚すれば株価の暴落や取引先との関係悪化などの深刻な影響が予想できるでしょう。実際に某海外企業では不正会計により株価が90.56ドルから1ドル以下まで急落した事例もあります。
今後の取り組み方針
今後の取り組みとして、以下の方針を推奨します。
1. リスクアプローチの徹底
某大手企業の調査によれば、社内不正の再発防止策として最も多かったのは「リスクアプローチの徹底」でした。これには、不正が発生しそうな業務に対して厳しい監査を行うことなどがあります。また、リスクの高い監査エリアではより定期的な監査を行う必要があります。社内不正の経験者を対象にした調査では内部不正に効果的だと思う対策として管理者の増員など監視体制を強化する方法が上位にありました。組織全体でのコミュニケーションの強化も、このアプローチの一環として重要になります。
2. 技術の活用
AI技術やデータ分析を活用して、不正行為の早期発見を目指します。特に、遠隔地での監査を効果的に行うために、証拠となるデータをデジタル化したり、高度なデータ分析を活用することが推奨されています。これにより、リモートでの監査がより強化されます。
3. 人員の確保と教育
内部監査部門の人員を適切に確保し、その教育を徹底します。また、会社が直面する多岐にわたるリスクに対応するために、年齢や経歴に偏りのない多様な人員構成を目指します。
4. 不正発覚後の対応
不正発覚後はすぐに調査と適切な処分を行い、再発を防止する策を講じることが重要です。また、発覚後に会社による対応があった場合はなかった場合と比べて、その後の不正がなくなった割合が約3倍になるという調査結果もあります。
結論
社内不正を防ぐためには、組織全体での継続的な取り組みが大切です。単なる形式的な対策にとどまらず、具体的で実効性のある対策を講じることで、不正の発生を予防し、クリアな企業文化を育めるでしょう。従業員一人ひとりの意識を変え、不正の予防をすることはもちろん、AI技術などを利用して適切な監視体制を整備することで早期発見による対応が鍵となります。企業全体で協力して意識改革や監視体制の整備に取り組むことで、信頼される組織へと成長していけるはずです。